2012年10月6日土曜日

第二回 : カナダの新・成長産業の味とは? (2)

「有機食品産業はカナダで最も成長している分野のひとつで、小売販売は年20%近く成長しているんだよ」
ボニーと買い物に出かけた日、スーパーの有機食材の豊富さに圧倒されたことを晩の食卓で話したところ、早速ご主人のデイブが説明してくれました。デイブは政治、経済問題への関心が高く、彼がブログ(Blog Borg Collective)で発信する意見や見識は、地元の新聞社にしばしば取り上げられるほどのものです。
「20%も! 何でそんなに成長できるの?」
「まずは需要があるからだよ。調査によれば、カナダ国民の40%が有機食品を頻繁に買って、18%が定期的に購入しているそうだ」


TVの国会中継に真剣なまなざしを送るデイブ。
ちなみにバンクーバーがあるBC州の消費税は12%

長女のRebecca。ハンサム&長身なだんな様と2児に囲まれたワーキングマザー。
優しい心配りは母親ゆずり。キングサーモンを取り分け中。

健康的な理由から、さらに環境意識の高まり、ヨガブームに惹起される自然志向などによって、ここ数年、カナダ人消費者はこれまでになく安全で環境に配慮した方法で生産された食品を求めるようになっているそうです。その需要に応えたのがオーガニック(有機)食品です。
「だけど農作物は工業製品と違って、需要が増えたからといって供給が増やせるものではないのに、どうしてカナダはスムーズに増やせたの?」
「カナダは有機食品の生産に向いている国なんだよ。国土が広く、気候は寒冷。人口密度は低い。というわけで害虫や病気が少ない。だから農薬の使用を減らしやすいんだ」
「政府の後押し政策みたいなものは存在するの?」
「もちろんあるさ。カナダにとって有機食品は国としての国際的な影響力、ひいては国力を高める重要なツールのひとつだからね」
「国力?」
私は目を丸くしました。オーガニックといえば私にとっては健康的で、ちょっとオシャレなイメージです。それが国際的な影響力とか国力とかの話につながってくるとは、想像もしていませんでした。

「オーガニック食材への需要が世界中で高まっているのを背景に、カナダからの有機作物、さらにパスタ、スナック食品といった有機加工食品の輸出は急増していて、早い時期に200億ドルは超えるだろうと推定されている。このように有機食品市場は天然ガスや木材のほかにカナダの新たな主要産業になりつつあるわけだが、それを見た各国も追随したがるのが世の常というものだ。日本政府も関心を示すかもしれないね」
「自国の生産者のライバルが増えるってことで、カナダにとってはマイナス影響?」
「Maho、有機分野の市場がはじまったばかりなのを忘れてはいけないよ。マイクロソフト然り、だいぶ前になるがVHS対ベータ然りだ」
※いろどりの美しい野菜やフルーツが並ぶカナダのスーパーマーケット。
  至る場所に「ORGANIC(有機)」の文字が見える


「そうか、規格か!」と思ったものの、英語でなんと表現すればいいのか分かりません。急いで電子辞書を使って〝規格″を表す英単語を探します。
「正解だ」デイブが満足げにうなずきます。「カナダは有機食品について厳格な規格を設けて運用しているが、政府はカナダ規格の国際的承認を得ることで、自国業界の競争力向上をはかるのはもちろん、食品の安全性、環境配慮の面で世界のリーダーになろうと目指しているんだ」
その試みはほぼ成功するだろうと、デイブは誇らしそうに締めくくりました。アメリカすら手も足も出ないと(カナダ人はアメリカの影響を受けつつ、競争心も強いらしい)。


ボニーがデザートにとオーガニックの青リンゴを用意してくれました。手に取って、皮ごと一口かじります。カナダの政治的野心を秘めた新成長産業の味は甘く、ほのかに酸味がしました。


ジャムにパスタソース、クラッカー、クリームetc.
ベビーフードまで有機(オーガニック)!

2012年10月5日金曜日

第二回 : カナダの新・成長産業の味とは? (1)

2012年6月3日、生まれてはじめてカナダの地面を踏みました。 ちょうど飛行機の到着が夕暮れ時にぶつかり、数年前にTVで観たバンクーバーの美しい街並みが夕日を浴びて茜色に輝く光景を、空の上から眺めることができました。
入国審査を無事終えてゲートを出ると、まず最初に大きなカナダ原住民伝統の木彫り像が出迎えてくれました。 そのすぐ手前で「Welcome! MAHO」と書かれたペーパーを手にした年輩のカナダ人夫婦が、黒髪の日本女性といっしょに立っています。ホームステイでお世話になるデイブ(Dave)とボニー(Bonnie)ご夫妻、そしてバンクーバー生活をサポートしてくれる真澄さんです。


到着後、バンクーバー空港の駐車場でさっそくphoto!

真澄さんについては後日詳しく紹介させていただきますが、元は日本の外務省関連の団体で仕事をしていた方で、会社経営をしているアメリカ人のご主人と10年ほど前からバンクーバーへ移り住み、ご自身でも通訳のほか、バンクーバー長期滞在や留学のためのコーディネイト会社(HP)を経営している女性です。
バンクーバー冬季オリンピックが開催されたときには、日本のTV局のサポートや企業のVIPの方々の通訳で活躍されたのだとか。
その彼女がコーディネイトしてくれたのが、デイブとボニー宅での短期ホームステイでした。


「彼らはカナダ人の典型的なリタイアメント夫婦です。どちらかといえば裕福な部類に入るかもしれません。
アイルランド系で父祖の代からカナダ人、郊外の美しい自然に囲まれた閑静な住宅街にある庭付きの持ち家に暮らし、同じ敷地内に長女夫婦と小さなお孫さんたちが住んでいます。 高い教育とこれまで培ってきた経験を生かして、地域でのボランティア活動にも熱心です。 日本の文化にも関心を持っていますが、日本語は話せません。滞在のはじめに夫婦と日常を過ごすことで、乗り物の利用方法や買い物の仕方といった基本的な生活手段を知るのはもちろん、北米の一般家庭の慣習や価値観にふれる機会を手にできます」
と真澄さんの弁。


「食事も肝心です」デイブが運転する車の後部座席で、真澄さんの熱心な説明が続きます。「日本人は新鮮な野菜や果物を欲しがりますが、北米ではピザとフレンチフライポテトが食事の定番という家庭も珍しくないんです。その点、ボニーは料理上手で、健康にも関心が高いですから心配ありません」
心配ないどころか、楽しみといえば3度の食事になるほど、ボニーの作る料理はプロのシェフも顔負けの美味しさでした。さらに驚かされたのは、彼女の使う食材が肉も魚も、野菜、果物、バターやチーズの乳製品、油、調味料にいたるまですべてがオーガニック製品だったということです。


料理上手でいつも微笑みをたやさないボニー

種類も豊富でたとえばミルクならば、牛や山羊のミルク、豆乳、米乳、アーモンドミルク、ヘンプミルク(麻の実乳)が冷蔵庫の中に常備されていました。パンも小麦、ライ麦、稗(ひえ)、米、アマランサス、イースト菌有り、無しといった具合に多くの種類がストックされています。そのどれもがオーガニック(有機)製品です。わたしが一番に驚いたのは、豊富なオーガニック食材を供給するカナダの小売業と農業の存在です。日本でも健康意識の高まりからオーガニック食材がずいぶんと増えましたが、手間がかかるし値段も高くなりますから、一般的といえるまでは浸透していません。

渋井真帆のカナダ留学日記: 留学日記:カナダの新・成長産業の味とは? (2)